顧客フロントSEのIT勉強ブログ

2022 Japan AWS Top Engineer / 2022-23 Japan AWS Certifications Engineer。AWS認定12冠、情報処理試験全冠。顧客フロントSEがなるべく手を動かしながらIT技術を学んでいくブログです。

【書評&要約】WORK SHIFT - 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

f:id:se_o_chan:20220223012650p:plain2025年の働き方はどうなっているのか。
2012年から10年以上先の未来を予測したのがこの本です。

2022年になった今この本を読むと「予測」というより「答え合わせ」に近い感覚になりますが、驚くほど正確に予想が的中しています。

著者の考えが正しいことを実感できるので、自由で幸せな働き方へシフトするための提案がより説得力を持ちます。

10年前の書籍ですが今読んでも全く色あせない、それどころかコロナ禍で働き方が変わった今だからこそ読んでおきたい書籍だと感じます。

『WORK SHIFT』

本の概要

2012年8月に初版が出版されています。

著者はリンダ・グラットン氏。
イギリスのビジネススクール教授であり、経営コンサルタントです。

「LIFE SHIFT」「LIFT SHIFT 2」という本がベストセラーになっており、そちらを読んだことがある人も多いかもしれません。これらの本もいずれ書評・要約したいと思います。

「世界のトップビジネス思想家15人」に選定されたり、安倍首相時代に人生100年時代構想会議メンバーに外国人として唯一招聘されている輝かしい実績をお持ちの方です。

ページ数は約400ページ。

数日~数週間かけてじっくり読み上げる本ですね。

本の構成

第1部 なにが働き方の未来を変えるのか?

第2部 「漫然と迎える未来」の暗い現実

第3部 「主体的に築く未来」の明るい日々

第4部 働き方を<シフト>する

第1部で向こう数十年の未来を形づくる5つの要因を紹介します。

第2~3部では、その要因から予想される「バッドエンド」と「ハッピーエンド」の未来をロールプレイで例示します。

第4部でハッピーエンドに向かうために働き方に関してシフトすべき3つの提案をしています。

読み物として面白いのは第2~3部ですね。
「うわっ、今その通りになってるよ!」という記述がたくさんあって、2012年(日本はPhone 4Sでようやくスマホが普及し始めた位ですかね)から良くここまで予測できたなぁと感心してしまいます。

本の要約

未来をつくる5つの要因

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第1部の内容です。

向こう数十年の未来を考えるにあたって、未来を形づくる5つの要因をあげています。
書籍全体の土台となる概念であり、この分類を整理したことがこの書籍の大きな意義だと思います。

  • 「テクノロジーの進化」クラウドSNS・AIなどのIT技術の進歩です。これらが未来を変えることに疑問の余地はないですね。SEとしてその一端を担えることも誇らしく思います。
  • グローバル化の進展」IT技術の進歩で世界の距離が短くなり、新興国が台頭する反面、先進国でも世の中の動きに追随できない新たな貧困層が出現、という内容です。国を越えてコミュニケーションを取るハードルが下がり、これも未来を変える大きな動きですね。
  • 「人口構成の変化と長寿化」:全世界で長寿化して高齢者が増える、という内容です。個人レベルで見ても余生が長くなることは人生設計に大きく影響します。
  • 「社会の変化」:女性の力が強くなり、男性は仕事一辺倒ではなくなる。IT技術の進歩で余暇時間が増えるが、企業・政府への不信感が強まり幸福感が弱まるという内容です。
  • 「エネルギー・環境問題の深刻化」:持続可能な社会への意識の高まりです。SDGsやESGなどここ数年はまさに大きな流れになっていますね。

バッドエンドな未来

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第2部の内容です。

前述5つの要因に対して漫然と迎えてしまう「バッドエンドな未来」の例を3つ挙げています。

  • 世界の距離が短くなり、世界中から連絡を受け、24時間365日時間に追われる未来
  • ずっとオンラインで仕事してほとんど自宅を出ず、対面コミュニケーションがない孤独な未来
  • 先進国にいながら専門知識を身に付けられず、新たな貧困層がうまれる未来

ほとんどの記述が既に現実になっている気がします・・・

特に2例目はコロナ禍で急速に進んでしまいました。オンラインで仕事すること自体悪いことではないですが、対面でのコミュニケーションが圧倒的に少なくなり、孤独感を感じている人は多いはずです。

図のようにいずれの未来も複数の要因が絡み合っています。各内容を詳しくは触れませんが、とても具体的に解説してくれており根拠も説得力もあります。

ハッピーエンドな未来

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第3部の内容です。

次は各自が主体的に動いたことで迎える「ハッピーエンドな未来」の例です。

  • インターネット上で世界中にいる様々な分野の専門家と協業するコ・クリエーションな未来
  • 新興国に移りボランティア活動しながら仕事も続ける、仕事と社会活動のバランスが取れた未来
  • 企業に雇われず自由に仕事を行うミニ起業家が活躍する未来

いずれの例も生き生きと活動しているのが印象的です。

本書でも触れられているようにマズローの欲求5段階説における最上位の「自己実現の欲求」を達成できているからでしょうね。人としてこれ以上ない幸せだと思います。

ハッピーエンドに向けた3つのシフト

第4部の内容です。

ここでようやく「WORK SHIFT」の概念が出てきます。

ここまで読むと誰でもハッピーエンドになりたいと思いますが、そのための知的・人間関係・情緒的資本に関する考え方の変換(シフト)が提示されています。

それぞれが相互に影響しあいながら働き方を高次なレベルへと引き上げてくれます。

知的資本:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へのシフト

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従来は広く浅い知識を持つ「ゼネラリスト」であれば潰しが効きリスク回避になっていましたが、浅い知識であればネットの世界からすぐ得られるようになりました。
その結果、ゼネラリストであること自体がリスクとなったため、「スペシャリスト」へとシフトする必要があります。さらにはリスク回避のために複数分野を習熟すべき、という考えです。

非常に厳しい考え方ですね。広く浅いゼネラリストでも狭く深いスペシャリストでも許されず、広くかつ深い「連続スペシャリスト」でなければなりません。

それを実現するために必要な2つの資質が「専門技能の連続的習得」「セルフマーケティングです。

  • 専門技能の連続的習得とは

当たり前ですが、スペシャリストになるためには専門技能の習得が必要です。
とはいえすぐ廃れる技能を身に付けても仕方ないので、①価値ある技能が何か考えて選択し②その技能を磨き③そこから横に転進していこう、というステップです。

その中でここでは③横に転進をもう一段深堀りします。

転進の方法論として「幅広い人的ネットワークを持つ」「自分自身で複数の専門技能を身に付ける」の2つが提示されています。

前者は、大勢の多様な人たちとの接点から様々なアイデアや発想に触れ、そこから横に転進するきっかけを得ようとするもの。これは第二のシフトそのものでもあります。
後者は、身に付けた知識・技能を土台にして、隣接分野の技能を磨いていこうというもの。専門技能の連続的習得のメインです。

基本は自分の隣接分野へと幅を広げつつ、多様な人と接して時には全く別分野に跳ねる、というイメージでしょうか。

グローバル化によりライバルは全世界に広がりました。その中で埋もれて「見えない存在」にならないために自分を際立たせましょう、というものです。従来はライバルは自社社員であり、自分の存在は社内の実績で語るという考えだったのかもしれませんが、一歩会社を出ると自分が何者なのかを証明できないと生き残れないということだと理解しました。

ここでの方法論は①自分の仕事に刻印・署名をする②ギルド(同業者組合)に属する③カリヨン・ツリー型キャリアを実践する、の3つです。

①について、例えばこのブログもそうですし、AWS資格取得もそうですね。自分がどのような技能・特定を持っているか広める仕組み・手段のことです。

②については、AWSユーザグループ(JAWS)に属してコミュニティ内の繋がりを持つことなどが例でしょうか。企業を超えた能力証明の手段となります。

③については、1つのキャリアだとある段階(50代以降)で価値が降下し、人生100年時代のせいで60歳定年で逃げきれず人生終盤が苦しくなるよ、という考えに端を発しています。カリヨン(とは何かはググってください)が複数のベルを連ねるように、仕事→休む→仕事→ボランティア→仕事→学業→・・・のジグザグなキャリアを描くのがカリヨン・ツリー型キャリアです。個人的には何故これがセルフマーケティングに属するのか分かりませんが、連続スペシャリストになる1つの方法だとは思います。

人間関係資本:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へのシフト

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オンライン化で人間関係の繋がり方が大きく変わってきました。特にここ数年はコロナ禍でそのスピードが速まりましたが、仮にコロナが落ち着いてもオンライン中心のコミュニケーションは進んでいくでしょう。
そんな中で孤独に陥らずその恩恵を受けるために人間関係をシフトしよう、というのがこの考えです。

新時代の人間関係は次の3パターンすべてを意識的に伸ばしていく必要があります。

  • ポッセ -頼りになる同志

困ったことがあればお互い助け合う少人数のメンバです。必ずしも親友というわけでなく、お互いが信頼関係で繋がった同志です。お互い助け合う関係ということは専門分野が近く、能力も近しく、すぐに集まれる(オンラインでもOK)ことが条件になってきます。
ただし特徴が近いメンバだと、みんなが問題に同じ方法で取組んでしまい、ブレイクスルーできないリスクもあります。それを打開するのがビッグアイデアクラウドです。

多様な背景を持つ大人数の集まりです。できる限り自分とは違うタイプの人間とつながりを持つことが重要になります。SNSやブログでの繋がりはこの1つです。
ただしビッグアイデアクラウドに交友関係を偏らせると対面コミュニケーションによる密な接点が少なくなり、孤独を感じることもあるでしょう。それを埋めるのが自己再生コミュニティです

  • 自己再生コミュニティ -支えと安らぎの人間関係

家族や親友のような、自分を支え安らぎを与えてくれる人間関係です。これまでは家族が同居し、友達と会うのは対面で、というのが普通でしたが、それが変わりつつある中で自己再生コミュニティも意識的に築く必要性が増しています。

情緒的資本:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へのシフト

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3つのシフトの中で最も概念的で最も難しく、その上でおそらく著者は最重要だと考えている考えです。

これまではがむしゃらに仕事を頑張り、その見返りとして給料を得て、その給料で美味しい食べ物、高級なブランド品、魅力的な家に住むのが目的であり幸せの根源だと考えられてきました。私自身、深く考えることなく深層心理の世界でこの考えが植え付けられてきた気がします。

テクノロジーの進化で比較的自由な余暇が生まれ、サステナビリティが叫ばれているこの時代、果たしてそれが真の幸せなのか?その問いに対する著者の答えは「充実した経験こそが幸せの土台」というものです。

所得がある閾値を超えると、それ以上幸せの度合いは増えないらしいです。かつ先進国の多くの人はその閾値に達していると。従来の消費・お金は重要視しつつも、より充実した経験に重心を移すべきだと著者は主張します。

先進国・新興国問わず生きることに困窮している人もいる中で、これを意識できること自体恵まれていると思います。ただ、だからこそ3つのシフトの中で最後に位置付けられ、最難関とされているのだとも思いました。

経験を重視すると給料は下がるかもしれません。そのリスクは正しく理解した上で自分の責任で主体的に選択する。お金・経験のバランスは自分がとる。このレベルに達した人は選択の自由を得た半面、自分の幸せに対する責任を追っています。

ここに対する方法論は、自分が人生で何を大切にしたいのかを意識し、自分の生き方に責任を持つ覚悟です。これは7つの習慣における「ミッション・ステートメントです。本書では方法論を具体化していませんが、ここは7つの習慣に則るのがよいと思います。

7つの習慣」についてまとめた記事はこちらをご参照ください。

まとめ

この本を読んで、グローバル化に備えた準備(語学、専門技術)がまずは必要だと感じました。またこれまで「人脈」というとあまり良い印象ではなかったのですが、ポッセ・ビッグアイデアクラウド・自己再生コミュニティという人間関係は「意識的に」作り上げるものだ、というのも個人的には目から鱗でした。

自分のミッション・ステートメントを軸に置きつつ、語学・専門技術を磨き、人間関係を伸ばしていくことを意識していきたいです。

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