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【書評&要約】人を動かす

 「上司との関係が上手くいかない」「部下が思うように動いてくれない」「顧客に提案を受け入れてもらえない」のように人間関係で思い悩んでいる人は多いでしょう。 世の中にはコミュニケーションに関するハウツーが溢れていますが、100年近く前に出版され、今なお読み続けられている現在の古典と言えるのがこの「人を動かす」です。

 本書では30個の原則が上げられていますが、実はそれらはたった3つに集約されます。本書の基盤となる考え方を理解し、自身のコミュニケーションに活かしましょう。

『人を動かす』

本の概要

 原書は1936年に初版が発行されました。 著者はデール・カーネギー。雑誌記者、俳優、セールスマンなど様々な職業を経て、弁論術や成人教育の講師となった方だそうです。

 文庫版だとページ数は318ページ。 そこまでボリュームは多くないですが、流石に100年近く前の書籍ということでやや読みにくく、数日かけてじっくり読むと良いと思いました。

本の構成

PART 1 人を動かす三原則
PART 2 人に好かれる六原則
PART 3 人を説得する十二原則
PART 4 人を変える九原則

 全体通して、著者自身や有識者(といっても100年前なのでほとんど知らない人です…)の実体験を説明することで各原則が有益であることを示していく構成です。

 私がこの本を読んだ最初の印象は「同じ内容を繰り返してない?」でした。 合計30個の原則が提示されていますが、かなり重複感があり同じ内容を表現や事例を変えて説明していると感じました。 この本には前置きや本の構成説明がないため私の理解となりますが、恐らく30個の原則は横並びの関係ではなく「PART 1 人を動かす三原則」こそが基盤であり、他の27原則はその派生・細分化です。

 なぜそう考えたかを要約を通じて整理していきます。

本の要約

「人を動かす」とは?

 この本の表題であり、PART 1のタイトルにもなっている「人を動かす」とはどういう意味でしょうか。 PART 1の中で説明されている実体験こそが人を動かせた事例のはずですが、『顧客とよい関係性を築けた』、『幼稚園に行きたくない子供を説得できた』、『凡人が偉人に変わった』という風に人を動かした内容は多岐にわたります。つまり「人を動かす」とは感情・考え・態度の全てを変えるという意味であり、PART 1の内容はPART 2~4の好かれる・説得する・変えるを内包していると考えられます。

 PART 2~4も整理してみましょう。 PART 2の「人に好かれる」とは相手から自分へのベクトル(感情)の内容を変えることです。 逆にPART 3の「人を説得する」は自分から相手へのベクトル(考え)を上手く働かせることだと考えられるでしょう。 PART 4の「人を変える」は相手が自身へのベクトル(態度)を変えたと言い換えられます。

 つまりPART2~4は他者へ与えられる影響を網羅的・MECEに分解しており、それらを集約したのがPART 1の「人を動かす」なのではないでしょうか。

人を動かす三原則とは?

 PART 1で触れられている三原則は次の内容です。

  • 盗人にも五分の理を認める
  • 重要感を持たせる
  • 人の立場に身を置く

 1つ目の「盗人にも五分の理を認める」とは、要するに批判・非難しないということです。 表面的な行動・結果だけを見て感情的に批判しても、一時的な改善だけで根本解決にならないので、まず相手のことを理解することからスタートしようということです。

 2つ目の「重要感を持たせる」は、率直で誠実な評価を与えることだと言い換えられています。人の根本的な欲求の1つに重要人物たらんとする欲求、「自己の重要感」があると述べられています。つまり素直で誠実な評価・賛辞を与えることは「自己の重要感」という要求を満たさせることと同義なのです。

 3つ目の「人の立場に身を置く」とは、相手の立場になって考えることで、自分の要望を相手の強い欲求にすることだと言います。相手の要望と自分の要望が一致すれば、おのずと相手は自分の希望する行動をしてくれるでしょう。

 ここでPART 1がPART 2~4の集約という位置づけなのであれば、この三原則が書籍全体の基盤となります。 ではなぜこの3つなのでしょうか?本書P.32では次のように述べられています。

人を動かす秘訣は、この世に、ただ一つしかない。自ら動きたくなる気持ちを起こさせること――これが、秘訣だ。
(中略)
人を動かすには、相手のほしがっているものを与えるのが、唯一の方法である。

これを踏まえてもう一度三原則を振り返ってみます。 2つ目の原則は直接相手の欲しいものを与えており、「重要感を持たせる」のは我々から相手への外発的な働きかけです。 一方で相手の欲しいもの自体を作ってしまおうということで、3つ目の原則は相手自身への内発的な働きかけになっています。 そして1つ目は、相手を理解することで心から賛辞も送れるようになる(2つ目の原則)し、相手の立場で物事を考えられるようになる(3つ目の原則)と繋がります。

 基盤となる三原則の関係性が整理できました。特に2つ目と3つ目の原則はアメリカの心理学者L・デシのモチベーション理論における「内発的動機付け」と「外発的動機付け」という動機付け理論と同義になりそうです。
(参考)外部サイトですが、L・デシのモチベーション理論はコチラをご参照ください。

本当に三原則が全ての基盤なのか?

 では本当にPART 2~4は、PART 1の三原則の派生・細分化と言えるのでしょうか? 私なりに紐づけていくと次のような関係性となりそうです。

動かしたいものが感情(PART 2の好かれる)・考え(PART 3の説得する)・行動(PART 3の変える)のいずれかによって、効果的な行動に若干の差はあれど、確かにPART 1の三原則に集約されていきそうです。

まとめ

 本書で述べられているエッセンスは全て「PART 1 人を動かす三原則」に詰まっていることが分かりました。 だからこそ本書の邦題を『人を動かす』にしたのでしょう(原書のタイトルは『How to Win Friends and Influence People』で直訳するなら、友に勝ち人々に影響を与える方法、でしょうか)。

 途中で触れたベクトルの図で、唯一抜けているのが自分から自分へのベクトルです。本書は他者を動かすことにフォーカスしているのでスコープ外になっていますが、個人的には自分自身を良い方向へ導く方法は「7つの習慣」がベストだと思っています。 7つの習慣については過去に要約・書評をまとめているので、こちらもご参照ください。

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