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【書評&要約】リーダーの仮面 ー 感情に依存しない組織マネジメントの公式

 これまでプレーヤーとして業務に当たっていたが、ある程度実績が積みあがる or 年次を重ねるとリーダーになる時が来ます。リーダーは同僚との付き合い方がこれまでと違い、リーダーの仮面を被り思考法を切り替える必要があります。
 リーダーになるために持つべき思考とは?それをどう実践する?書籍の要約と書評から読み解いていきます。

『リーダーの仮面 「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』

本の概要

 2020年11月に初版発行。著者は安藤広大氏という株式会社識学の社長です。ドコモやジェイコムを経て、2015年に独立されています。識学は会社名であり、かつこの書籍のベースとなっている学問だと紹介されています。

「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どうすれば解決できるか、その方法を明らかにした学問です(本書 p.10)

ですが公式に識学という学問があるわけではなく、安藤氏が「意識構造学」から作った造語*1だということです。また「意識構造学」を提唱した福富謙二氏は株式会社識学の主要株主でもある*2ので、実態は福富氏・安藤氏による独自ノウハウの色が強いです。

 モチベーションや感情を重視するリーダー論とは一線を画しており、内容が非常にセンセーショナルなため、発行から2年以上経つ2023年2月現在でもAmazon「リーダーシップ」カテゴリで1位になっている書籍です。

本の構成

序章  リーダーの仮面をかぶるための準備
第1章 安心して信号を渡らせよ(「ルール」の思考法)
第2章 部下とは迷わず距離を取れ(「位置」の思考法)
第3章 大きなマンモスを狩りに行かせる(「利益」の思考法)
第4章 褒められて伸びるタイプを生み出すな(「結果」の思考法)
第5章 先頭の鳥が群れを引っ張っていく(「成長」の思考法)
終章  リーダーの素顔

 第1~5章が本書の中心でありそれぞれの思考法について説明した後、各章の最後で実践方法を提示しています。

 全体で278ページ。図表は全くありませんが平易な言葉で書かれているので読みやすく、著者の考え・主張が分かりやすいです。数日あればスッと読めてしまうと思います。

本の書評

組織マネジメントには公式がある

 リーダーと言うと、周囲を惹きつけるリーダーシップとカリスマ性がある人というイメージが思い浮かぶかもしれません。しかし本書ではそのようなセンスは不要であり、組織マネジメントには誰でも良いリーダーになれる「数学」のような公式があると主張しています。その公式が第1~5章の「ルール」「位置」「利益」「結果」「成長」の思考法です。

 それぞれ一言でまとめると以下になります。

  • ルール:場の空気ではなく、「誰がいつ何をやるか」言語化されたルールを定める
  • 位置 :対等ではなく、上下の立場からコミュニケーション(依頼ではなく指示)する
  • 利益 :人間的な魅力ではなく、利益の有無で人を動かす
  • 結果 :プロセスを評価するのではなく、結果だけを見る
  • 成長 :目の前の成果ではなく、未来の成長を選ぶ

 これらを徹底するために「個人的な感情は脇に置け」「部下に好かれようとするな、距離を置け」「モチベーションは否定する」と、ともすると非人間的にも思われる言葉が何度も出てきます。これも組織マネジメントは感情や空気を読む国語的なものではなく、数学的な公式であるという主張がベースにあるからです。
 たしかに本書は学問のように論理立てて「何故こうするべきなのか」を丁寧に示しています。しかし、組織マネジメントは感情・センスに依らない数学的な公式である、という主張が正しいという前提の上に積みあがっている論理であり、それが識学という学問です。例えば次のような内容がその前提事項を表現しており、これを受け入れられない人は本書に拒否感を覚えるかもしれません。

・感情はマネジメントを邪魔します(本書p.40)
・雰囲気がよくなるから成果が出るのではなく、成果が出るから結果的に雰囲気が良くなるのです(本書p.48)
・本書ではそれ(モチベーション)をハッキリと否定します。リーダーの役割は、部下たちのモチベーションを上げることではなく、成長させることです(本書p.50)

「成長」という利益は会社と利益相反しない

 私自身はデール・カーネギー「人を動かす」のような、人の感情に視点を置いたリーダーシップ論の方が好みなので本書の主張を全面的には受け入れることはできませんでした(※「人を動かす」の書評・要約はこちら)

frontse.hatenablog.jp

一方で「この考えは覚えておきたい」と共感する点もたくさんありました。ここではその中から『「成長」という利益は会社と利益相反しない』というものを紹介します。

 それは第3章「利益」の思考法で出てきます。

人間は何を基準に動くのでしょうか。(中略)それは「自分に利益があるかどうか」です(本書p.149)
(リーダーは)個人と会社が「利益相反」を起こしていないかどうかだけを見るのです(本書p.163)

集団で動く以上は「組織の利益」を追求すべきだが、人が動く基準は自分に利益があるかの「個人の利益」であるため、個人と組織が利益相反を起こしていないかを見る、と著者は言います。これは私自身も同意する考えです。デール・カーネギー「人を動かす」でも、相手の要望を理解しこちらの要求を相手の要求と一致させることで人を動かせると述べています。

 一方で、こんなことも述べられています。

個人が追及することで会社が利益を得るもの。それは「成長」しかありません(本書p.163)
「成長意欲があること」を前提にリーダーはマネジメントし、部下を「使えない社畜」にしないようにすべきです(本書p.152)

誰しもに成長意欲があることを前提にして、業務を通じて部下が成長するよう促すことで個人と組織の利益が一致させるのがリーダーの仮面におけるマネジメント方法だということです。この文の後半は同意ですが、前提にはやや無理がある気がしています。成長することの喜びには人によって大小あり、「自分が成長するから組織に貢献しよう」という考えにならない人もいると思います。ただ、逆に成長が自分の利益であると心から感じれるようになれば、会社は永遠に利益を得続けることが出来る環境にもなり得ます。リーダーの仮面ではモチベーション自体を否定してしまっているので、誰しもに成長意欲があることを「前提」にする他なかったのかもしれません。しかし現実的にはどうやって部下の成長意欲、モチベーションを刺激するかがリーダーにとって1つの課題になりそうだと感じました。

まとめ

 2020年11月に発行され、2023年2月現在もなおベストセラーとなっているリーダーの仮面を書評してみました。学問をベースにしていると述べられているが独自ノウハウの色が強く、好き嫌いが分かれそうな書籍でした。
 しかし文章は平易で読みやすく、実践まで落としこんでいるのが好印象ですし、共感できる部分や試してみたいと思った部分もたくさんありました。全面的に取り入れなくてもよいので、リーダーになりたて or リーダーとして悩んでいる方は一度読んでみると良いと思います。